シングルタスクとマルチタスク

タクシーの運転手さんが奥さんの話をしていて「どうして女性はああいう風に一度にいろんな仕事をこなすことができるんでしょうね。ああいうのをマルチタスクっていうんですか?私にはとても真似できません」といっていた。奥さんは運転手さんが感服するほど複数の家事仕事を同時にこなしているらしい。

確かに私も仕事のない日に家で何をしているかというと、部屋を片付けながら洗濯機に洗濯物を放り込んで、ついでに風呂の湯を抜いて、ちょっとトイレに入ったついでに洗剤を振り掛けてペーパーで拭く。洗面所で手を洗うついでに風呂場をのぞくと浴槽が空になっているので、洗剤を振り掛ける。

台所に戻ると鍋のお湯が沸いている。塩を一つまみいれ、洗っておいたほうれん草をいれる。茹で上がるまでに、夕べの残りのご飯を入れるシール容器を棚から下ろし、鍋をかき回す。流しにざるをおいて、ほうれん草の鍋をあけ、水でさらす。再び風呂場に行き、浴槽や洗い桶をスポンジで磨く。

こんな風に書くとものすごくエネルギッシュに仕事をこなしているように思えるが、何のことはない、単に行った先で目に付いたことに何の脈絡もなく手を出しているに過ぎない。決して複数の仕事をこなしている、というものではないのである。それが証拠に、風呂磨きに気を取られすぎて洗濯物を干すのを忘れ、ご飯を移すのもすっかり忘れて、シール容器を片付けてしまうありさまである。

つまり、決してマルチタスクで仕事をしているのではなく、手当たり次第にシングルタスクで仕事をしているのである。まあ、それでも男性から見たら同時進行で複数の仕事をこなしているように見えるのかもしれない。

反対に男性はと見ると、職場で見た限りでは複数のプロジェクトを管理し、原稿を書きながら緊急のメールに返事を書き、スタッフからの報告を聞く。それらのすべてに的確な指示を出しなしながら、部下の腹具合や懐具合にも気を配る、といった具合だ。頭の中は完全に仕切られていて、それぞれが与えられた仕事をこなしているだけなのかもしれない。これぞまさしくマルチタスクといえるものかもしれない。