時間の感覚

がんで闘病生活を送っている知人がいる。仮にYさんとしておこう。毎日死にたいと言っている、どうしたらいいか分からないとYさんのご主人は言っていた。勇気づけてやって欲しいと言われたが、生活に踏み込んで行って励ますというほど親密な間柄でもない。かといって、手を拱いているわけにはいかないと思い、なんとか口実を作って家を訪ねてみた。顔を見るなり、私はがんなのよ…と、言葉を挟むまもないほどの勢いで死にたいと言う。こういう状態では言葉での励ましなんて、気休めにもならないと思って余計なことは言わないで帰ってきた。それから2年、気にはなっても訪ねることは控えていた。
今日夫と休日の朝ごはんを食べに出たとき、偶然ご主人と2人でお茶を飲んでいる彼女に会った。少し元気を取り戻したようで、以前に比べたら頬もふっくらし、表情も明るかった。ちょっと前にご主人に会ったときは、あまり芳しくないという話を聞いていたが、思いのほか元気そうで安心した。
たまには気分転換に外出もしたいという彼女の前向きな言葉に、10年前に一緒に働いた共通の若い友人を誘っておしゃべりでもしようと提案した。とても喜んでくれたので、さっそく2人の友人に連絡し3人のスケジュールを調整した。結果、3人が揃うのは3月の第1週ということになった。
Yさんに連絡すると、まず、そういう機会を持つことをとても喜んでくれたが、3月と聞いて驚いていた。拍子抜けして、出鼻をくじかれた気がしているように感じられた。
子供や家族の世話に追われたりしていると1ヶ月や2ヶ月先のことなんてあっという間にやってくる。ずっと先の事だと思っていたのに、気がついたらもうすぐそこに迫っているなんてことはよくある。仕事を持っていてもそうだ。私は、月単位、曜日単位でスケジュールを管理している。2ヶ月先、3ヶ月先まで予定が入っている曜日もあって、すぐには対応出来ないこともある。無理をすれば空けられないこともないが、3月なんてすぐだという感覚があった。
でも、毎日家でひとりで夫の帰りを待つ生活をしている人には、時間はとても緩やかに流れていくのかもしれない。たとえ1月先でも、ずいぶん遠いことのように感じるのだろう。そういうことまで配慮して、声をかけるべきだったと思う。