体育の日

もう20年ほど前になりますが、地域の運動会に狩り出されたことがあります。どうしても選手がみつからないという理由で、スエーデンリレーという年代別リレーに出るようにいわれたのです。しかもあろうことか、30代の私に20代として出ろと言うのです。いくら走るのは苦手だからと言っても聞いてもらえません。傍から見て、私は走るのが速いように見えるのでしょうか?あるいは、一般的に日本人は謙譲を美徳とするところがありますが、私もその手の人間だと考えたのかも知れません。役員の方は絶対にあきらめそうもありません。あまりかたくなに拒むのも協調を乱すことになる、もういいかげん大人なんだからいつまでも駄々をこねないで...。と思い承知しました。

引き受けたからにはがんばろうと意識を高めているうちに、「もしかしたら本当は速く走れるのに、走り方を知らないだけなのではないか」私は次第にそんな風に思うようになってきたのです。私はそれを実証するべく、毎日イメージトレーニングをしました。手を早く、大きく振って、足を高く上げ、強くける....まあ、素人の私が思いつくのはこの程度なのですが、とにかくがんばりました。機会があればそのイメージを元に、実際に体を動かしても見ました。毎日がんばっていると、なんだか本当に速く走れるような気になってくるのですから、不思議です。6年間4等か5等しかとった事のない小学校の運動会は、私の実力を出し切れなかった「悪夢」のようなものだったとさえ思えてくるほどです。

いよいよ本番です。今こそ私の本領を発揮するときが来たと武者震いし、はやる心を押さえて10代の走者を待ちました。私の組は早いです、1番前を走ってきます。バトンを受けた私は「これはいける、仮に私が何人か抜かれても3位か4位にはなるだろう」と、必死に走りました。イメージトレーニングの通り「手を早く、大きく振って、足を高く上げ、強くける....」これをひたすら繰り返して走ったのです。ところがどうでしょう、右から左から皆次々に私を追い越していきます。気がつくとたった150メートル走る間に私はすべての人に抜かれていました。あまりにも悲惨です。小学校時代の悪夢がそのままよみがえってきました。

儚いものだが、選手を引き受けてから走り出す瞬間まで夢を見ることができた。そう自分を慰めることが、せめてもの自分への思いやりでした。幸いその後の「タガ回し」ではダントツの1位になる事ができました。これは中1の運動会の「障害物競走」の1位を思い出させる結果でした。