大きくて怪しい荷物

いつものことながら、この荷物の多さは尋常ではない。今回は一人旅だから荷物は多すぎず、できる限り旅なれた風を装ってスマートに行動しよう。そう思って、スーツケースとダンボールひとつは宅急便で空港にあらかじめ送って、電車にはバッグ一つ持って乗るつもりだった。ところが土壇場で「やっぱりお米も、そうだお赤飯も作ろう」などと考え、あれもこれもと買い足して、結局はとんでもない大荷物になってしまったのである。布製の袋に米やもち米やささげなどを詰め込んで、電車に乗るにも「エイッ」「ヨイッショッ」と掛け声をかけなければ持ち上がらない。

空港で荷物を受け取ってからはもっと大変。チェックインする時にはカートを使えないので、汗だくになって荷物を運ぶ。ようやく大きな荷物を手放して、キャスターに布袋二つを乗せたものと、これまた大きなバッグを肩に担いで空港内をさまよう。機内に乗り込んでからも狭い通路に引っかかって行きつ戻りつ。こんなみっともないことはない、もう二度とこんな荷物は持ってこない、そう固く誓ったのである。

成田を1時間近く遅れて出発したのに、ポートランドにはほぼ定時に到着した。入国管理官とはお定まりの「目的は?」「娘に会いに」「学生?」「いえ、結婚してます」という会話。このあたりで止めておけばいいものをつい「私はおばあちゃんになるのよ」「へえ、それはおめでとう。で、いつ?」「多分、今日か明日」などと、いらないおしゃべりをする。そこまでは“ちょっと荷物がかさばることを後悔した一人旅”ですんでいた。

荷物が出てくるのをしばらく待って、また汗をかきながらカートに乗せる。荷物チェックが終わったらすぐにもう一度荷物を預けてお茶でも飲もうと考えながら進んだ。ところがカウンターでは、おっきな女の人がにこりともせずに「ちょっとこれを開けてくださいマム」と荷物を指差す。こんな善良そうな日本国民を捕まえて何をいうのかと思うまもなく、彼女は私が苦労して結んだダンボールの紐を容赦なくカッターで切り開いている。で、そうしながら別の荷物をあけろと目で促す。開けたってたいしたものはない。「米ともち米とささげ・うどんとそばとラーメン・調味料と調味料・スナックとスナック」見せるのも恥ずかしいようなごく普通の食品と衣類が出てくるだけである。いくつかこれは何かと確認した後で、開いたダンボールをテープでさっと止めてよこした。

あのねェ、私は持ちやすいように紐をしっかり結んできたのよ。それを平気で切って。なんとかしてよ。と言いたいけどそこまで言えない私の英語力。悔しいけど心の中で「残念でした。何も出なかったでしょう」と憎まれ口をききながら、黙って引き下がるしかない。そもそもこの「荷物を開けろ」というのはどういう基準で言ってるのだろう。私がアメリカにくるのは1年か2年に一度だから、怪しいほどは多くない。じゃ、怪しそうな風貌??それも考えられない。係官の長年鍛えた感?不自然なほどの荷物の量?いったいどれだろう。ま、私の次につかまった人は柿を2個取り上げられていたから、かなりの確立で怪しい人を見分けているのかも知れない。陽子も以前肉を取り上げられたと言っていた。これも確かに当たっていたのである。