満席

いよいよ出発の朝。部屋を片付けて、荷物を作っていると杏子がルカを抱いて部屋に入ってきた。手渡されたルカを抱きながら、不自由な姿勢で荷造りをする。

杏子とオスカー、ルカ、タビの見送るを受けてブライアンの車に乗る。今日は土曜日、ブライアンも陽子も仕事は休みで空港まで送ってくれる。チェックインカウンターで荷物を預けると、搭乗口のカウンターでシートを決めてもらうようにと言われる。朝昼兼用の軽食をとり、搭乗カウンターでチケットを提示する。名前を呼ぶから待つようにと言われ、椅子に腰をかけて待つ。搭乗が始まり、シートナンバーを告げる間に、時折誰かの名前を呼んでいる。じっと耳を傾けて聞くが、私の名前はなかなか呼ばれない。「もしかしたら......本当に乗れないかもしれないね」陽子の言葉に笑いながら「うちに戻ってもいい?」とブライアンに軽口をきく。

だんだん残っている人が少なくなって来ると、さすがに心配になってくる。カウンターに「私の名前を呼びましたか」とたずねると、係りの人は「まだです、しばらく待ってください」とにこりともしないで言う。ブライアンがオーバーブッキングかたずねると、そうだが心配は要らないという。その言葉を半信半疑で聞きながら待つことしばし...。とうとう周りには誰もいなくなり、待っているのは私だけになった。ようやく「フュジカタ」と呼ばれ、搭乗の段になった。

ほっとした思いで陽子とブライアンに別れを告げ、機内の人となる。シートナンバーは40B、いつものことながら後ろの席だ。ついでながらポートランドからの便は41E。超格安航空券の宿命だろうか、私は41から前の席にはついた記憶がない(その昔のヨーロッパ旅行のときは記憶にないが....)。長い通路を通ってたどり着いた40Bにはすでに10代の女の子が座っている。ここはあなたのシートか、私のチケットにはこの番号が書いてあるがと言うとしぶしぶ立ち上がって、ほかの席に移動した。なんてやつだ。謝りもしないで。

座席の上の荷物置き場は高くて私にはとどかない。前の座席の下に何とか押し込んで腰掛けると、肩をぽんとたたく人がいる。「よろしかったらその荷物をあそこに上げましょうか?」と聞いてくれる人がいる。なんて親切な人なんだ。お願いしてお礼を言って再びシートベルトをはめる。するとまた、ポンと方をたたかれる。「私が忘れていたら降りるときにいってくださいね、おろしてあげますから」とこれまたご丁寧におっしゃってくださる。約1時間の後、親切に甘えてとっていただこうとすると、ほかの方が自分の荷物のついでにおろしてくださった。

ポートランドで乗り換えた成田行きDL51便は、超満員で、座席は5人がけの真ん中である。たぶんそうだろうと予想していたので、トイレにも立たず、たまに足を組替える程度で10時間じっと我慢の子であった。