ひとは皆師である

黒岩が時々メールをくれるようになった。彼はトマトが開業してまもなく、私を始め、アルバイトの面々が、あまりの忙しさに耐え切れなくなった時に入った。佐々木さんが心当たりがあるというので、面接をしたのだが、黒岩のメールに書いてある通り、彼はパジャマ(ということは後で知った)で面接に来た。ぼさぼさの頭に、よれよれの服。あまりの汚なさに私は躊躇したが、一時のつなぎでもよいと思い、とりあえず採用した。ところが、これが佐々木さん同様、希にみる逸材で、以来トマトの宝物の一つになった。
人と人の出会いには、「偶然」が大きく作用する。私はトマトを開業したおかげで、何人もの素晴らしい若者と知り合うことができた。まず最初にある人の紹介で佐々木さんを採用し、その紹介で黒岩が入った。その黒岩の紹介で入ったのがさっとである。椎野は開業前の求人広告、猪原は飛び込みで来たものを私が面接し採用した。どこかでちょっとでも歯車が狂っていたら、出会わなかったかも知れない人たちである。マスターは「トマトのアルバイトの基礎は、佐々木、黒岩を中心にできた」と、ことあるごとに言う。そこに椎野が加わり、その精神は、さっと、猪原を経て次の世代へと受け継がれてきた。
佐々木、黒岩の二人は就職をし、トマトを去った。さっとはトマトに来て6年、猪原も5年になる。椎野は途中ブランクがあるが、開店以来で、すでに6年以上になる。次の世代の佑次でさえ、もう4年もトマトで働いている。私は彼らから、多くのことを学んだ。彼らが大きく成長した6年間に、私も少しではあるが成長したのではないかと思う。