緩和ケア

おじさんの入院しているのは群馬県にある国立療養所である。林間にある広い敷地に幾つもの病院棟が建ち、ゆったりとした雰囲気がある。おじさんはがん患者の緩和ケアを目的とした、平屋建てのホスピス病棟にいる。ホスピスの基準に即して病室はゆったりと広く、バスルームもついている。窓からは手入れの行き届いた庭が見える。

病室には家族が泊まることも許されていて、その他に家族が泊まれる和室も用意されている。終末を迎えた病人が心安らかに日常を送れるようにさまざまな配慮がなされているようだ。ここに移ってから痛みが和らいだとおじさんは喜んでいた。抗がん剤の治療もないので、苦しむことが少ないらしい。

昼にはおかゆと吸い物、いくつかのおかずが運ばれてきた。それぞれ二口三口だけで食は進まないようである。肺がんだということもあるのだろうが、痰がひどく何度も苦しそうに咳き込んでいた。それでも自力で痰を切れる力があるのは、喜ぶべきことなのだろう。

夜ちゃんと寝るために、日中はなるべく寝かさないようにと看護婦さんは言う。とはいってもあまり起こしておくのもかわいそうになる。夜は看護婦さんが少なく人手が足りないからなのだろうか。それとも純粋に医学的見地から、昼はなるべく起こしておいて夜寝かせるようにしたいのか私にはわからない。いずれにしてもおじさんにゆっくり休んで欲しいと思い、2時間ほどで病室を出てきた。

私も仮にがんになったら、いたずらに延命治療をするのは避けてこういう環境で最後を送りたい。おじさんはこの病院に入るのに、しばらく待たされたという。今の状況では望んだ人すべてが入れるものではないようである。希望する人がすべて入れるような施設が整うのはいつのことなのだろう。