私がクレイマーに なりそうだった瞬間

 夫が「この代金、振り込んだ?」と差し出した手紙は、某大手山系の出版社からの手紙だった。私はそこから物を買った覚えはない、夫の言う意味が呑み込めないまま封筒の中身を読んだ。

 1999年3月に通信販売で購入した書籍42冊分の代金が未入金だと書いてある。3割引の特別価格で受けた注文品であり、既に3年が経過しているので早急に回収させていただきたい。これまでにも何度か請求したにもかかわらず、今だ払い込まれていない。

と・・・。

 そう、確かに以前夫がまとめて山の本を購入した覚えがある。おそらくその代金は郵便振替かなにかで払い込むようになっていたのだろう。我が家ではその手のことは私の仕事になっているのだからと記憶をたどってみるが思い出せない。間違いなく払い込んだと思うが、確証がない。

 いずれにしても、夫はこれは既に払い込んでいるはずであると伝えてあるというので、その日はそれで話が終わった。

 1週間ほど後、その出版社からA4判の封筒が届いた。(予想に反して)例の件についての書状ではなく、最新のカタログが入っていた。これは別の係りから届いたDMだと思ったが、確かめると、封筒の中にはもう一つ封筒が入っていた。

 これには次のように書いてあった。

 4月22日付けで結果として大変失礼な封書を差し上げた。4月24日に連絡をいただいたので、当時の郵便振替台帳を調べた結果99年3月12日に受注、3月23日付の入金が確認できた。
99年2月より3ヶ月間、割引キャンペーンを行ったが、担当外のスタッフも動員したため事務処理に間違いがあった。失礼の段を重々お詫びし、今後ともよろしくお願いします。

・・・と、ここまでは納得はできないまでもまあ、許せる内容であった。

その後に続く1文に私は驚き、この某出版社の対応の全てに改めて立腹した。

 『最近できました小社図書目録を同封いたしました。お気に入りの書籍や雑誌、ビデオ等ございましたら、ご用命いただけましたら幸甚でございます。』

 腹が立つのは2点。こんなに簡単に入金の確認ができるのなら、なぜ早急に支払うようにと連絡をする前に調べなかったのか。また、「お詫びのご報告」という文書を送るついでに目録を送って商売をしようとする破廉恥さである。

 どこに、どのようにこの怒りをぶつけたら私の気持ちを収めることができるのか。某社に電話しても担当者が適当に謝って、それで終わりかもしれない。何より当事者の間だけで収めてしまうのは納得できない。

 不特定多数の誰でも良いから、こういうことがあったということを知ってほしい。そうして、ほんの少数でも良いから私の立場と、怒りに同意する人がいてほしいという気持ちになる。

 私たちのような個人が自分の思いを社会に訴える手段は、そうあるものではない。私がそれほどの時間や手間をかけずに、自分の思いを伝えることは「クレイマー」になることだ・・・と、思った瞬間だった。