レストラン

淳子と二人で近所のレストランに行った。何年か前にできたのは知っていたのだが、機会がなくて漸く行くことができたのだ。
思ったとおり、ご夫婦二人で営業している(らしい)こぢんまりとした感じのよい店だった。
魚料理も、肉料理も、ピザも・・・と迷った挙句、淳子が魚、私がステーキのコースをお願いすることにした。
スープは冷製のトマト(淳子)と、セロリ(私)。どちらも丁寧に作ってあっておいしい。
次は小さなサラダ。私も淳子も一口食べると同時に「あっ」と小さな声を上げた。最近では珍しいフレンチタイプのドレッシングで、ウッドペッカーで作っていたのものに良く似ている。
メインのホタテのパイ包み焼き(淳子)とヒレステーキ(私)も、既製品ではない、手作りの味がした。特にステーキソースは甘味がなくて私の好きなタイプのものだった。
最近はどこに行ってもドレッシングはイタリアン系と和風が多くて、ごく普通のフレンチタイプのものは少なくなってきている。ステーキソースもどちらかといえば甘口のものが多いような気がする。
白(淳子)と赤(私)のワインも、すっきりと飲みごこちがよく、デザート(シャーベットとムース)も、ちょっと濃い目のステーキを食べたあとの舌に心地よかった。コーヒーは入れたてのようだったが、できれば豆にもう少し気を使ってもよいのではないかと思った。
私たちが食事をしている間、他のお客さんは来なかった。土曜日の7時過ぎで、すぐ近くの焼肉専門店「牛角」や「マクドナルド」は駐車場まで人があふれていたというのに・・・。
「丁寧に作ったおいしいものを、適正な価格で提供しているのに、なぜ、営業成績が振るわないのか」かつて同じことをしていた者としてはオーナーの気持ちをこう推測する。
私はまったくそうだと思う反面、今のように全く別の仕事をしていると、この店を客観的に眺めることができるようになっている。味もよいし、価格もこの料理には適正だと思う。ただこの店は、立地条件や規模などから来店する客層を見極めた上で、メニューと価格の設定をするという、大切なことが抜けているように見える。
自分の技量と、価値観を元に全てのことを決めているのである。首都圏の人通りの多い場所での営業ならそれで差別化を測れるだろうが、なまじ競合店が近くにないだけにもう少し一般的なメニューや価格設定が必要なのではないだろうか。
…と、食事をしながら考えた。岡目八目とはよく言ったもので、現役の時には、客観的に考えているつもりでも自分たちの価値観を基点にして物事を決めていたような気がする。